なぜなぜ分析「5なぜ」 (元)豊田自動織機 石川君雄氏
・ナットク現場改善シリーズ よくわかる「5なぜ」の本
石川君雄氏(著)/日刊工業新聞社/151ページ
著者は、(元)豊田自動織機の石川君雄氏です。氏はよくわかるシリーズで他にも著書があり、トヨタ式の製造現場のノウハウを世の中に教えられている先生です。
この本の特徴は、単になぜなぜ分析の進め方を説明する本ではなく、なぜなぜ分析が製造現場の問題解決を俯瞰して解説し、そのなかでなぜなぜ分析の必要性を説明した上で、具体的に、なぜなぜ分析の進め方を説明している点です。なぜを5回繰り返すという理由も具体的に説明されていて、5回のなぜについては、それぞれのなぜに意味を持たせていることを知って理解が深まりました。
なぜなぜ分析自体の進め方は、マネジメントダイナミクスの小倉氏の本をご紹介しました。手法の詳しくはそちらの本も分かりやすいと思います。一方で今回の本は、現場の5Sや特性要因図や連関図などのQCの手法の解説もあるので、問題解決の色々な考え方も理解できます。また著者の専門的な経験や知識から分析された知見が紹介されています。一方で、紹介されている事例は少しシンプルな感じがしますが、現場の分析事例としては分かりやすい内容です。
なぜなぜ分析だけの内容かと思っていたら、この書籍の後半はQC(品質管理)とKM(ナレッジマネジメント)との関係を説明されていて面白いですね。ナレッジマネジメントは知識の創造とその活用であるという話があり、QC活動との相違点が述べられています。野中郁次郎氏のSECIモデルを取り上げて、改善活動においてどのように知識を抽出していくのかについて説明されて、QC活動への生かし方が提案されています。ナレッジマネジメントとQCについては、以前、構造化知識研究所のSSMや知識の構造化の本でも紹介しましたが、この本では現場の場のマネジメントの視点から知識の創造、共有、活用を話されています。構造化知識研究所の田村氏と同様にITツールの前にどのように良い知識を作るかということに注目しているように感じました。
日刊工業新聞社のよくわかるシリーズは内容が実践的で良い本が多いと感じます。お勧めですね。
未然防止型QCストーリー(中央大学 中条武志氏)
「こんなにやさしい未然防止型QCストーリー」
中条武志氏(著)/日科技連出版社/111ページ
著者は、中央大学の中条武志氏です。QCストーリーというQCサークルで取り組む活動の指針において「未然防止型QCストーリー」というものに対して説明された本になります。
QCストーリーという言葉自体、あまりよく知らなかったのですが、未然防止というキーワードに惹かれて手に取りました。内容はQCサークルの活動として未然防止の課題をテーマに挙げて、チームで活動に取り組む際の具体的な進め方をいくつかのステップに分けて体系的に紹介されています。
QCサークルというのは起きている不良などの原因を分析して製造現場を改善するためのものという印象があったのですが、この本でいう未然防止型QCストーリーは、そのような話ではなく、製造現場を離れて、何か起きるかもしれない問題をあらかじめ取り上げて、その未然防止のために業務を改善するということに主眼が置かれています。
活動の進め方は、テーマの選定、現状の把握と目標の設定、活動計画の策定、改善機会の発見、対策の共有と水平展開、効果の確認、標準化と管理の定着、反省と今後の課題という流れになります。この進め方はとても面白いのですが、QCサークルに取り組んだ人の経験や知識がないと、素人がいきなり取り組むのは難しいかもしれません。効果の確認というステップは案外現場では難しいかもしれないと思います。起こりそうな問題が、この活動の前後でどの程度起きなくなったのかを計るのは難しいなと思いますので、うまいやり方を考えないといけませんね。
従来のQC活動に閉塞感を感じている現場においては画期的な取り組みになるのではないかと感じます。そもそも派遣か正社員の区別がある現場では、QCサークルは職場の構造的な問題もありそうですが・・・。未然防止型QCストーリーがそのような職場構造の問題も気にならないぐらい広がればいいですね。
Quick DR -実践編-(日産自動車)
Quick DR -実践編-(日産自動車)
・日産自動車における未然防止手法 Quick DR(実践編)
大島恵氏(著) / 日科技連出版社 / 198ページ
著者は、日産自動車の大島恵氏です。以前にQuick DRの書籍を出版されていましたが、その後、続編として出版された書籍です。著者がQuick DRの実践やセミナーでお話ししている内容をまとめているとのことです。
この本の特徴はDR(デザインレビュー)の教科書的な内容というよりも設計の現場の視点で具体的に解説されている点です。DRを進めるにあたって50の視点から解説されており分かりやすいです。レビューアの心得などもとても参考になります。
日産自動車では1000件以上のQuick DRが実践されているとのことで驚きました。すごいですね。私の身の周りではDRを実践するだけでも四苦八苦しています。自動車の世界はDRを進めるノウハウも豊富にあるでしょうし、進め方も体系化されているのでしょうね。
事例は構造系が中心で、分野的には分かりやすいですが、電子回路などの事例も今後期待したいところです。品質管理を一から始めるような現場にはハードルが高いかもしれませんが、DRがうまくできずに悩んでいる現場にはとても役に立つと思います。
派生開発プロセス「XDDP」(システムクリエイツ 清水吉男氏)
・「派生開発」を成功させるプロセス改善の技術と極意
清水吉男氏(著)/技術評論社 / 415ページ
著者は、株式会社システムクリエイツの清水吉男氏です。ソフトウエアの派生開発(保守開発)をうまく進めるための方法としてXDDP(eXtreme Derivative Development Process)を開発された方で、ソフトウエアの品質管理の分野では著名な先生です。他にも書籍を出したり、派生開発推進協議会を立ち上げられ、教育・啓蒙にご尽力された方でしたが、2017年11月にお亡くなりになったとの報に触れて驚きました。心よりご冥福をお祈り申し上げます。
この本はソフトウエアの派生開発の現状を分析し、XDDPの提案と具体的な進め方の紹介がなされています。400ページを超える長編で読破するのはとても大変な本ですが、内容が濃く、非常に勉強になります。派生開発に特化していますが、ソフトウエア開発の多くは派生開発ですから、とても意義のある本です。
構造化プログラミングなどを勉強したり、SQuBOK(ソフトウェア品質知識体系ガイド)を読んだりしましたが、なかなか自社の仕事のなかで使いこなすことは大変です。しかし、XDDPのこの書籍は、予備知識無しでどんどん内容を理解、吸収することができるので、実践に生かそうという気になります。
XDDPを会社のなかで推進するにはだいぶ大変な感じがしますが、ソフトウエアの派生開発の進め方においてここまで体系的に考えられているものは他にないのではないかと感じます。派生開発推進協議会ではさらに派生開発の進め方について進化させていくご様子なのでぜひ期待したいと思います。
2019年08月20日
なぜなぜ分析(マネジメントダイナミクス 小倉仁志氏)
・なぜなぜ分析 徹底活用術
小倉仁志氏(著)/JIPMソリューション/182ページ
著者は、なぜなぜ分析の分野では大変有名な小倉仁志氏です。なぜなぜ分析の具体的な事例を豊富に紹介されており、なぜなぜ分析の具体的な進め方が理解できる書籍です。
なぜなぜ分析は、原因を突き止めていくためにはとっつきやすい手法ですが、どこまでなぜを繰り返す必要があるのかわからずにどんどんよくわからない方向に進んでしまうことがあります。私はいつも迷ってしまいます。皆さんも心当たりありませんか?
この本のよいところは、具体的ななぜなぜ分析の事例に対してポイント解説があるので具体例を理解しながら何に注意しないといけないのか、理解できる点です。なぜなぜ分析は具体的な例を本でよく見かけますが、なぜそのように書いているのか、なぜそう書いてはいけないのかを詳しく説明していないことが多いです。
設備の故障のような話が多いのですが、ときどき身近な生活にかかわる例もあってわかりやすいものになっています。今後もなぜなぜ分析のわかりやすい本が増えることを期待したいです。
知識の構造化(構造化知識研究所 田村泰彦氏)
・トラブル未然防止のための知識の構造化―SSMによる設計・計画の質を高める知識マネジメント
田村泰彦(著)/日本規格協会 /149ページ
著者は、構造化知識研究所の田村泰彦氏です。田村氏はSSMの提唱者として有名な方です。この本は、JSQC選書というシリーズの第4弾として刊行されています。
内容は、SSMというより知識の構造化の重要性に焦点を当てられています。「風が吹けば桶屋が儲かる」という知識を、知識の構造化の視点で考えるとどのような知識にすべきなのかが解説されていましたが、なるほどな~と思いました。三段論法のトラブル予測への応用の話もあって面白い本です。
構造化知識を、トラブルに関する知識と対象に関する知識にわけて説明されています。SSMの手法に関する詳細は割愛されているようですので、SSMそのものを詳しく知りたい人には、少々物足りないかもしれません。一方で、最初に知識の構造化や構造化知識とは何かを知りたい人にはちょうど良い本だと思います。
先の中條武志氏の「人に起因するトラブル・事故の未然防止とRCA」もそうですが、JSQC選書はできるだけシンプルに主題を解説することがコンセプトのようです。JSQC選書は品質管理に関する解説書として毎年継続して増えていて、テーマも様々でとても面白いです。知識の構造化の本に限らず、最新の研究テーマからも本になっているようなので、新しい考え方を得たい人にはいいかもしれませんね。
SSM(構造化知識研究所)
・SSMによる構造化知識マネジメント ― 設計開発における不具合防止に役立つ知識の構築と活用
田村泰彦(著)/日科技連出版社/184ページ
著者は、構造化知識研究所の田村泰彦氏です。SSM(ストレス-ストレングスモデル)という名前は、最近聞くようになりましたが、不具合の知識を構造的に表現するためのモデルだそうです。未然防止や再発防止って、考え方とか進め方・技法の本が多いけど、この本は知識そのものの構造やあり方に着目している点が特徴的です。
SSMに関するはじめての専門書だそうで、構造化知識の作り方や活かし方について、製品設計や製造工程設計などに分けて解説されています。具体例が結構多いので、自分も知っている知識があったりすると、親しみ(?)がわきます。
この本は、同氏の著書「トラブル未然防止のための知識の構造化―SSMによる設計・計画の質を高める知識マネジメント」よりも詳しくSSMについて解説されているようです。
構造化知識って大事ですね。品質問題から教訓を得るときに、SSMや構造化知識の考え方を知っておくと、教訓の内容がだいぶ良くなるように思います。
実際、文書情報の寄せ集めでは役に立たないことが多いです。様々な種類の情報を重要度や意味によって分類したり、情報同士の間に「事実と推測」や「原因と結果」などの関係を見出したりする作業が、事故の再発防止には欠かせません。情報を論理的に整理する。それが構造化というプロセスの肝になるかと思います。
情報を構造化知識にすれば、より正しい判断や意思決定をしやすくなります。一般にロジカル・シンキング(論理思考)と呼ばれる思考法の多くも、この構造化の手法と相通じるものがあるように思えます。
未然防止の考え方(電気通信大学 鈴木和幸氏)
・未然防止の原理とそのシステム―品質危機・組織事故撲滅への7ステップ
鈴木和幸(著)/日科技連出版社 /225ページ
著者は、電気通信大学の鈴木和幸氏です。鈴木氏は信頼性工学で有名な先生です。この本は、再発防止は重要であるが未然防止こそ重要というコンセプトに基づき、未然防止活動を7つのステップにわけて解説しています。
各ステップのなかでは、未然防止に関する基本的な考え方やFMEAなどの手法が解説されているので、未然防止の考え方を学ぶにはよいかもしれません。また氏の研究成果と思われるものも紹介されています。
ページ数が多いですし、読むのは簡単ではないですが、未然防止のステップをしっかりと実現することを主眼においているので、経営者やマネージャ層向けの本かなと感じます。未然防止の重要性は再認識させられる本です。
ヒューマンエラー対策とRCA(中央大学 中條武志氏)
・人に起因するトラブル・事故の未然防止とRCA―未然防止の視点からマネジメントを見直す
中條武志(著)/日本規格協会 /151ページ
著者は、中央大学の中條武志氏です。この書籍は、JSQC選書というシリーズの第11弾として刊行されています。
中條氏はエラープルーフ研究で有名な先生です。ヒューマンエラーに起因するトラブルは新聞やテレビで頻繁に報道されていますよね。この本では人の不適切な行動をタイプ分類して、それぞれに対する未然防止の考え方が説明されています。RCAについても解説されています。
内容が体系的で、各章節で説明されていることや、各章節間の関係が明確なので、内容を理解しやすい本だと思います。エラープルーフ化の具体的な方法については、詳しく解説されているわけではなく、それは他の書籍に譲っているようですが、エラープルーフ化がなぜ必要なのか、またこれを実施するためにはどのような考え方が必要なのかということがしっかり学習できる本だと思います。
FMEA辞書(デンソー)
・FMEA辞書 ― 気づき能力の強化による設計不具合未然防止
本田陽広(著)/日本規格協会 /149ページ
著者は、デンソーの本田陽広氏です。この書籍は、JSQC選書というシリーズの第14弾として刊行されています。
著者によると、デンソーの機能品事業部では、設計起因の不具合予防のための道具を開発し、それを使用して設計審査を実施して効果をあげているそうで、この本ではその内容がされています。FMEA辞書というものも道具のひとつになります。また、道具をつかった未然防止活動の仕組みも紹介されており、具体的な活動内容が理解できます。
DRBFMと同じような内容もあり、違いがあるのかどうか気になる部分もありますが、FMEAの実施時にキーワード集を使って気づきを支援しているあたりなどは参考になります。